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貧の意地

貧の意地

 太宰治の作品の『新釈諸国噺』に「貧の意地」というのがある。
     新釈諸国噺
全国書店ネットワークのe-honから

おおむねのあらすじは次のようなものです。

むかし江戸品川藤茶屋にある貧乏長屋に、原田内助という鬚が濃い、眼の血走った厳めしい大男が住んでいた。
この男容貌に似合わず弱気な駄目な男で、剣術も眼をつぶってあらぬ方に向って突進し、壁に突き破ってしまうので壁破りと呼ばれたり、蜆売りのずるい少年から、嘘の身上噺に涙をながし蜆を全部買いしめ、女房に叱られてしまうような小心で優しい男であった。
大晦日になると、切腹の真似などをして掛取りから逃げたりしていた。

さいわい、女房の兄に医者がいて年越しの金に困ったので、無心にいかせた。その医者は洒落がある者で、小判十枚を紙に包み、その上書に「貧病の妙薬、金用丸、よろずによし。」と記して妹に手渡した。

女房からその貧病の妙薬を見せられた、原田内助は痩せ我慢をして「この金は使われぬぞ。」と意地をはってしまうしまつ。
ちょうど雪が降ってきたのをみて、原田は、長屋の友達を呼んで雪見酒をするといい、女房に酒を買わしにいき、貧乏友達七人を誘いに行かす。七人は、その日暮らしなので、雪見酒として着てゆく服などなく、夏物を重ね着するなどそこらのものを取り繕って原田の家にやってくる。

そして酒宴が始まると、みなは日頃貧乏で酒の呑み方を忘れたなどといって、笑っていなかなか酒を呑まない。しかし、次第に座敷が陽気になって来たころ。
主人の原田はれいの小判十両の紙包を取出し披露して、今日はこのようなことだから、皆に奢るから大いに呑んでくれというと、今まで割り勘だと思って遠慮して、呑んでいなかったが、それを聞いて皆は遠慮なくのも酔いも次第に回ってきた。
原田は、皆に小判十両の重さを手のひらに乗せて回していった。
小判が一回りして原田の元に戻ったころに。一番の年長者がそろそろ帰ろうと「や、おかげさまにてよい年忘れ、思わず長座を致しました。」とお礼を言い、みな立つ鳥あとを濁さずと、武士のたしなみ、自分の食膳などを勝手口に持ち出して女房に手渡し、れいの小判が散らばっているのを見ると、それも仕舞いなされと客にすすめられて、原田は無雑作に掻き集めると、一枚足りないのである。
けれども弱い原田それを素知らぬ振りで仕舞い込もうとすると、一座の長老が「小判が一枚足りませんな。」と軽く言った。
原田は、「ああ、いや、これは、それ、御一同のお見えになる前に、わしが酒屋へ一両支払い、さきほどわしが持ち出した時には九両、何も不審はございません。」と言った。しかし長老は「いやいや、そうでない。それがしが、さきほど手のひらに載せたのは、たしかに十枚の小判。行燈のひかり薄しといえども、この山崎の眼光には狂いはない。」と言うと、他の六人の客も口々に、たしかに十枚あった筈と言う。
そしてみなが皆々総立ちになり、行燈を持ち廻って部屋の隅々まで捜したが、小判はどこにも落ちていない。

長老は「この上は、それがし、まっぱだかになって身の潔白を立て申す。」と言ってふんどし一つになってしまうしまつ。
他の客も、そのままではすまされなくなり、みなも同じように自分の潔白を示すため、ふんどし一つになるします。
そうこうしていると、主人の原田が「おや?。そこにあるよ。」と叫び。行燈の下にきらりと小判一枚を見つける。
そして、長老が「なんだ、そんなところにあったのか。燈台もと暗しですね。うせ物は、とかく、へんてつもないところから出る。それにつけても、平常の心掛けが大切。」と言ってみなが帰ろうとすると。
勝手から女房の驚く声がする。「あれ!小判はここに。」と言い、重箱の蓋を差し出した。女房はさっき私が、重箱に山の芋の煮しめをつめて出したとき、蓋は主人が無作法にも畳にべたりと置いたので、その時に、蓋の裏の湯気に小判がくっついていたのでしょう。

小判が十一両。
これは、始めから十一両あったのでは、とか、十両が十一両になるのはよくあることなどとてんでいい加減なことを言って、原田に一両を押し付けようとする。原田も、自尊心があるのであらあらぬ一両をうけとることもできず。
「馬鹿にしないで下さいよ。十両の金が、十一両に化けるなんて、そんな人の悪い冗談はやめて下さいよ。だれかが、この難儀を見て所持の一両を、そっとお出しになったのに違いない。わしの小判は、重箱の蓋の裏についていたのです。行燈の傍に落ちていた金は、どなたかの情の一両にきまっています。その一両を出した方、申し出て下さい。」しかし誰も名乗り出てこない、そうこうしているうち、鶏が鳴きだし朝になってきた。

原田は一計を思いつき、「ながくおひきとめも、無礼と存じます。どうしても、お名乗りが無ければ、いたしかたがない。この一両は、この重箱の蓋に載せて、玄関の隅に置きます。おひとりずつ、お帰り下さい。そうして、この小判の主は、どうか黙って取ってお持ち帰り願います。そのような処置は、いかがでしょう。」と言うと皆一様に賛成してた。

原田は重箱の蓋に、一の小判をきちんと載せ、玄関に置いて来て、「式台の右の端、最も暗いところへ置いて来ましたから、小判の主でないお方には、あるか無いか見定める事も出来ません。そのままお帰り下さい。小判の主だけ、手さぐりで受取って何気なくお帰りなさるよう。」といい、長老から玄関を出て、その足音が全く聞えなくなると、次の者が帰っていった。七人の客が全員帰ったあと、女房が手燭を持って玄関に出て見ると、小判は無かった。



この『貧の意地』は、井原西鶴の「諸国はなし 大晦日はあはぬ算用」から太宰治が書き下ろしたものです。
井原西鶴といえば、町人物など生活を描いた「好色一代男」や「日本永代蔵」などで有名ですが、義理堅い武士気質の武家物の「武道伝来記」などを著しています。
そのなかから「大晦日はあはぬ算用」を太宰なりに、解釈して翻釈したのでうが、内容はほぼそのままです。
この「貧の意地」をよむと、腐っても鯛というか、武士は食わねど高楊枝というか、いくら貧窮していても、悪いことせず疑いをかけられたら、身の潔白を示そうと命をかけ、また他のものに嫌疑がかかると、その疑いを身を削ってでも削ごうとする。
いまでも、貧しい人ほどこのような人が下町に過ごしているのを見受けます。逆に、金持ちほどこのようなとき、他人に責任を擦り付けてしまうこともあるようです。
しかし、この原田や七人のような生き様をみると、自分の生き方のなんと愚かなことかと思ってしまいます。
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ジャンル : 学問・文化・芸術

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粋な話

≪「馬鹿にしないで下さいよ。十両の金が、十一両に化けるなんて、そんな人の悪い冗談はやめて下さいよ。だれかが、この難儀を見て所持の一両を、そっとお出しになったのに違いない。わしの小判は、重箱の蓋の裏についていたのです。行燈の傍に落ちていた金は、どなたかの情の一両にきまっています。その一両を出した方、申し出て下さい。」しかし誰も名乗り出てこない、そうこうしているうち、鶏が鳴きだし朝になってきた。≫

 粋な話だと思いました。「悪い冗談はやめて下さいよ」という箇所に原田の粋さが伝わりました。

Re: 粋な話

タケゾウさんコメントありがとうございます。

太宰は、原田にもっと心境を切々とのべさせています。
「このわしに押しつけるとは、まるですじみちが立っていません。そんなにわしが金を欲しがっていると思召さるか。貧者には貧者の意地があります。くどく言うようだけれども、十両持っているのさえ、わしは心苦しく、世の中がいやになっていた折も折、さらに一両を押しつけられるとは、天道さまにも見放されたか、わしの武運もこれまで、腹かき切ってもこの恥は雪がなければならぬ。わしは酒飲みの馬鹿ですが、御一同にだまされて、金が子を産んだと、やにさがるほど耄碌はしていません。

そして、
「さあ、申し出て下さい。そのお方は、情の深い立派なお方だ。わしは一生その人の従僕になってもよい。一文の金でも惜しいこの大みそかに、よくぞ一両、そしらぬ振りして行燈の傍に落し、短慶どのの危急を救って下された。貧者は貧者同志、短慶どののつらい立場を見かねて、ご自分の大切な一両を黙って捨てたとは、天晴れの御人格。原田内助、敬服いたした。その御立派なお方が、この七人の中にたしかにいるのです。名乗って下さい。堂々と名乗って出て下さい。」

まさに、武士の粋、江戸っ子の粋でしょう。
日本人がいま、忘れかけているところであり、このものが、互いに支えあって生きる社会を作るうえで大切なものだとおもいます、一人勝ちや裕福なものが、貧しいものをたすけるのでなく、この貧の意地は必要だとおもうのです。
■竹林乃方丈庵の主から■

・いつも拙文を読んでいただきありがとうござます。
・見聞きしたことを独断と偏見で、気ままに綴ったものです。
・自分のために無責任に書き留めたものですから、読み終わったら捨て下さい。

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    竹林泉水 (05/09)
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    竹林泉水 (02/07)
    コメントありがとうございます。
    五観の偈をとなえて食事をなさっておられるのですか。 頭がさがります。

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  • 昨日の続きである、「カラクテール」から
    幽村芳春 (02/03)
    私も必ず「五観の偈」を唱えてから食事をいただいています。実際に唱えると五観の偈の意味がよくわかります。
  • 津久井やまゆり園の裁判
    竹林泉水 (01/15)
    こちらこそ 今年もよろしくお願いします。

    やまゆり園の裁判で、被告が突然暴れ出したとニュースされたとき、詳しいことが報道されなかったので、よく分からなかったです
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