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弓術と体のブレ

弓術と体のブレ
 
明治時代に日本文化をドイツ人に紹介した人に、オイゲン・ヘリゲルという人がいます。
オイゲン・ヘリゲルは日本文化を知るために、弓術をまなんでいたが、弓を引くとき力ばかり入って、的になかなか中てることができなかった。そして先生である阿波研造師範に、中てると思うからいけないと言われるが、それがなかなか理解できなかった。ヘリゲルは日本滞在も残り少なくなり、日本の弓術を修得するのに焦り、阿波研造師範についに、どうすれば中るようになるかを聞いてしまった。
 
そのときの様子をヘリゲルは「日本の弓術」に次のように書いている。
「九時ごろ私は先生の家え伺った。私は先生のところへ通された。先生は私を招じて腰かけさせたまま、顧みなかった。しばらくしてから先生は立ちあがり、ついて来るように目配せした。私たちは先生の家の横にある広い道場に入った。先生は編針のように細長い一本の香取線香に火をともして、それを    あずち  の中ほどにある的の前の砂に立てた。それから私たちは射る場所へ来た。先生は光をまともに受けて立っているので、まばゆいほど明るく見える。しかし的はまっ暗なところにあり、香取線香の微かに光る一点は非常に小さいので、なかなかそのあかりが分からないくらいである。先生は先刻から一語も発せずに、自分の弓と二本の矢を執った。第一の矢が射られた。発止という音で、命中したことが分かった。第二の矢も音を立てて打ち込まれた。先生は私を促して、射られた二本の矢をあらためさせた。第一の矢はみごと的のまん中に立ち、第二の矢は第一の矢の筈に中ってそれを二つに割いていた。やがて次のように言われた。ーー「私はこの道場で三十年も稽古していて暗い時でも的がどの辺りにあるかは分かっているはずだから、一本目の矢が的のまん中に中ったのはそほど見事な出来ばえでもないと、あなたは考えられるであろう。それだけならばいかにももっともかもしれない。しかし二本目の矢はどうみられるか。これは私から出たのでもなければ、私が中てたのでもない。そこで、こんな暗さで一体狙うことができるものか、よく考えてごらんなさい。それでもまだあなたは、狙わずには中てられぬと言い張られるか。まあ私たちは、的の前では仏陀の前に頭を下げる時と同じ気持ちになろうではありませんか」ーー
それ以来、私は疑うことも問うことも思いわずらうこともきっぱりとあきらめた。・・・・・」
 
私はこの本を読んで、暗い中で的の命中させること、また日本目の矢を一本目の矢の筈を裂いているのを、日本の武術の神業的なものと考えたりしたが。それをどのように考えてよいかと思い続けていました。最近次のようなことではないかと考えるようになった。
 
日本の弓を習い始めるとまず、矢を射るのに腕に力を入れないように指導されるそうです。日本の弓の弦は強く張られているのに、腕には力を入れずに弓を引くように要求されるのです。このことはヘルゲルの「日本の弓術」にも書かれている、ヘルゲルは師範が弓を引いているときに腕を触らしてもらったとき、力が入っておらず柔らかかったと書いている。日本の弓術は弓を上に掲げて真っ直ぐ下に降ろして弦が引かれてくる。腕の筋肉の上腕二頭筋を使うより、肩胛骨を寄せる大小の菱形筋などを使うのでしょう。
そして、二本目の矢が一本目の矢の筈を裂いたのは、一本目と二本目の矢を射るとき、体の軸が保たれ姿勢にぶれをつくらずに、二本目の矢を射るからではないでしょうか。

日本の弓を詳しくしらないので間違っているかもしれませんが、的を中てると考えてはいけないと言うのは、目先の的に中てるということより、自分自身の体を意識し、体の軸がぶれないようにすることを言っている考えます。中てようと考えると身体は、無意識にぶれたり腕に力が入たりして、弓先が動いてしまうのものです。それを防ぐことが、オイゲン・ヘリゲルが悩み迷った「的を狙わず射て中てる」は、中てることを考えないで「不動の中心」と言う弓道でよく使われる言葉を見つけることなのでしょう。
 
軸を保つことの大切さは、一流のスポーツ選手を見ていても判ります。野球で投手のピッチングをみると、調子のいいときは体の軸がぶれずに腕が降り降ろされている。サッカーでも遠くの味方にパスをするとき、正確にされるときほど体のぶれがないようです。ハンマー投げや砲丸投げ、槍投げなどをみても、同じように身体の軸がぶれていないです。しかし、練習などを積み重ねていないと、それができないで力ばかり入ってしまうのです。しかも素人の私たちは力を出すときには、筋肉を緊張させて力を入れないと、力が出ないと思ってしまいます。重い荷物を両手で持ち上げるとき、荷物を上に引き上げるように身体を使うと、ぎっくり腰になったりします。それより腰に力を据えて両足を踏ん張って持ち上げると、思ったより力を入れないでも持ち上げられます。人の身体は重い物を持ち上げたり動かしたりするとき、力を出すために力を入れようとすると、その多くは力は外に向かっているのではなく、自分の方に向いて内に溜まってしまう、簡単な言葉で言うと、気張ってしまっていわゆる力んでしまう状態になってしまいます。
スポーツなどを指導されているとき、力むな力を入れすぎるなと指摘されることがあります。これは、自分では外に向かって力を入れているつもりでも、傍から見ていると力が内ちに向いていて、外に伝わっていない状態がわかるほどのときです。
 
日本の弓術に限らず弓は、戦いに使う道具が発展したものだです。その技を研くために日本では、弓馬の鍛錬として流鏑馬や笠懸などが行われ、単に戦いの道具としてではなく、精神の鍛錬にもなってきました。そして織田信長が長篠の戦いで鉄砲を使ったあたりから、武器としての弓は鉄砲へと変わっていき、弓は精神の鍛錬修養の一つとしての弓術となり、武士の嗜みになりました。このことは、江戸時代の平和な世界では武器は必要性がなくなり、ますますその傾向は高められていったようです。そして他の、武術は柔道などのようにスポーツとして発展していくのですが、弓道はそのような方向には進まず、精神鍛錬としての弓術弓道となっていきます。

なぜそのような方向に進んだかはよく判りませんがその一つに、日本の弓と他の弓と大きな違いがによるのかもしれません。アーチェリーなど他の弓はみな矢を弓の中央で番えますが、日本の弓は長弓といって矢を番えるのは、矢の下3分の1の所を持って番えます。そのため他の弓より射方が難しいため、自然に射るとき身体を意識する方に向きます。日本の武士道の精神と関係があるでしょうが、日本の弓は昔から精神の鍛練として発展していったのはその長弓だったからでないかと思いました。
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