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謡曲の三卑賤「善知鳥」「鵜飼」「阿漕」の備忘

能の曲のなかで、殺生をして地獄に落ちる三卑賤と呼ばれる曲、「善知鳥(うとう)」「鵜飼」「阿漕」についてのメモ、まずはその最後の部分を抜き出してみた。

◆善知鳥(場所は越中立山・富山)
地「娑婆にては。善知鳥やすかたと見えしも。/\。冥途にしては。怪鳥となり罪人を追つ立て鉄の。嘴を鳴らし。羽をたゝき銅の爪を。磨ぎ立てゝは。眼をつかんで肉を叫ばんとすれども猛火の煙にむせんで声を。あげ得ぬは鴛鴦を殺しし科やらん。遁げんとすれば。立ち得ぬは。羽抜鳥の報か。
シテ「うとふは却つて鷹となり。
地「我は雉とぞなりたりける。遁れがた野の狩場の吹雪に。空も恐ろし。地を走る。犬鷹に責められて。あら心うとふやすかた。やすき隙なき身の苦を。助けてたべや。御僧助けてたべや。御僧といふかと思へば失せにけり。
◆鵜飼(甲斐石和・山梨)
地「唯一乗の徳によりて。奈落に沈みはてゝ。浮びがたき悪人の。仏果を得ん事は此経の力ならずや。
地「是を見彼を聞く時は。/\。たとひ悪人なりとても。慈悲の心を先として。僧会を供養するならば。其結縁に引かれつゝ。仏果菩提に到るべし。げに往来の利益こそ。他を助くべき力なれ/\。
◆阿漕(伊勢の国安濃・三重)
地「唯罪をのみ持網の。波ははへつて。猛火となるぞや。あら熱や。堪へがたや。丑三つ過ぐる夜の夢。/\。見よや因果のめぐり来る。火車に業つむ数苦しめて。目の前の。地獄も誠なり実に。恐ろしのけしきや。
地「思ふも恨めし古の。
地「思ふも恨めし古の。娑婆の名を得し。阿漕が此浦に。なほ執心の。心引く網の手馴れしうろくづ今はかへつて。悪魚毒蛇となつて。紅蓮大紅蓮の氷に身をいため。骨を砕けば。叫ぶ息は。焦熱大焦熱。焔けぶり。雲霧。立居に隙もなき。冥土の責も。度かさなる阿漕が浦の。罪科を。助け給へや旅人よ。助け給へや旅人とて。また波に入りにけりまた波の底へ入りにけり。

この「善知鳥」「鵜飼」「阿漕」ですが、それぞれ殺生を生業にして咎に落ちる三卑賤とよばれています。しかし、それぞれ結末が違います。
「善知鳥」は、猟師の生業のために善知鳥の親鳥と幼鳥を繰り返し獲るのです、それにより地獄に落ち殺生した鳥獣から地獄の責め苦をうけ、旅僧の回向を願うが地獄の責め苦からのがれられないのです。
「鵜飼」は、生活のため禁断の漁をし殺生を繰り返すのですが、訪れた僧の縦僧の一人が馳走してくれた得度を思いだし、僧の法華の回向をうけ仏果菩提に到ります。
「阿漕」は、生活のためとはいえ禁断の海で漁をし咎を受けたのを、伊勢太神宮に参詣しに行く旅人に地獄での責め苦を見せるのですが、救われることはありません。

◆善知鳥
善知鳥安方 うとう‐やすかた
陸奥国外ヶ浜にいたという鳥。親が「うとう」と呼べば、子が「やすかた」と答えるという。
うとうは蝦夷の言葉で、突起を表す言葉。チドリ目ウミスズメ科の海鳥。大きさはハトぐらい。背面は灰黒色、腹部は白色。顔には2条の白毛を垂れる。生殖時期には上嘴基部から角状突起を生ずる。北方海洋の島で繁殖し、冬期本州から九州の海上にまで南下する。子を取られると鳴くという。

自分が狩った善知鳥やすかは「怪鳥となり罪人を追つ立て鉄の。嘴を鳴らし。羽をたゝき銅の爪を。磨ぎ立てゝは。眼をつかんで肉を叫ばんとすれども猛火の煙にむせんで声を。あげ得ぬは鴛鴦を殺しし科やらん。遁げんとすれば。立ち得ぬは。羽抜鳥の報か。」と責め続けられることで終わる。

◆鵜飼
能。榎並左衛門五郎原作、世阿弥改作の鬼物。甲斐の石和川いさわがわで禁漁を犯して殺された鵜飼が、旅僧を供養した功徳で成仏する。
このそうは日蓮とも言われているが、石和川いまの笛吹川には鵜飼橋がありその近くに日蓮宗の遠妙寺がありその山門には鵜飼山と書かれた額が掲げられているすです。また、鵜供養塔と漁翁堂などがある。この鵜飼の名を勘作といいその墓がある、この勘作は、平清盛の北の方二位殿の弟平大納言時忠という伝承もある。

◆阿漕
伊勢の海あこぎが浦に引く網も度かさなれば人もこそ知れ 西行
恋の忍び逢いにももちいられ密事を重ねる罪を、阿漕に例えられるのは悲しいことだと、罪深きものだが賎しみ給ひ候ふなよ

伊勢の海阿漕が浦に引く網も度重なれば現れにけり
逢ふことも阿漕が浦に引く網も度重なれば現れやせん
古今和歌六帖
逢ふことを阿漕の島に引く鯛のたびかさならば人も知りなむ
千束の契忍ぶ身の阿漕がたとへ浮名立つ

謡曲 望月

能 望月

あらすじ
信濃の国の住人安田の荘司友春の家臣、小沢の刑部友房は所用があって都にいる間に、主人の荘司友春が望月秋長と口論の末殺害されたことを聞き、直ちに帰国の途についた。しかし、自らの命も狙われていることを耳にしたので、一時難を避けるため帰国をせずにいた。そこで近江国の守山で甲屋という旅館を設けて暮らしていた。
友春の妻は、夫の討たれた後は頼りとするすべもなく、友春の遺児花若の手を引いて都に上ろうと故郷を出で、守山の宿にたどりつき、甲屋に泊まる。こうして主従は奇しくも再会し、涙を流して喜びあった。丁度そこに計らずも敵の望月秋長が、都から故郷に下る途中で甲屋に宿を取った。
友房はかたき討ちの絶好の機会として友春を打つ謀を企て、その夜、旅の徒然をなぐさめると称し、友治の妻は盲御前として曾我兄弟が一萬と箱王と呼ばれていた時の敵討成就の曲舞を謡い、花若は八撥を打ち、友房も獅子舞を舞い興を添えます。望月の油断して、居眠ったすきを見ておどりかかり、花若と二人で敵討ちを成し遂げます。

この演目は私はまだ、一度見たいと思っていましたが鑑賞したことがない曲です。この曲について調べているうちに是非とも鑑賞したい思いがつのります。
能は普通、ワキが初めに名乗りをあげて語りだしますが、この望月は、シテから語り出します。また、能には珍しくシテに台詞言葉しかなく、謡のないまったくの台詞劇で、シテは言葉の運び具合や調子に乙り張りをつけ友房を演じます。
地謡の一番の聞かせどころは何といっても、子方と荘司友春の妻のシテツレが謡うサシ「ここに河津の三郎が子に一萬箱王とて、兄弟の者のありけるが」に続く、仇であるワキの望月秋長の前で、子方とシテツレが盲御前と偽って、出し物として曽我兄弟の敵討ちの話を始める場面でしょう。一つ私が辻褄が合わないように思うのが、子やくの歳です望月が主君を殺した咎で、今日に十三年間も京に留め置かれえていたのですから、子は当時としては立派に大人として振る舞えたのですが、演じる子方は年少が多いように感じます。

謡曲 望月 台詞
シテ「かやうに候ふ者は。近江の国守山の宿甲屋の亭主にて候。扨も某本国は信濃の国の者にて候ふが。さる子細候ひて此甲屋の亭主となり。往来の旅人を留め申して身命をつぎ候。今日も旅人の御通り候はゞ。御宿を申さばやと存じ候。
ツレ子方次第「波の浮鳥住む程も。/\。した安からぬ心かな。
ツレサシ「これは信濃の国の住人。安田の庄司友治の妻や子にて候。さても夫の友治は。同国の住人望月の秋長に。あへなく討たれ給ひし後は。多かりし従類も散り%\になり。頼む木蔭も撫子の。花若ひとり隠し置かんと。敵の所縁の恐ろしさに。思子を伴ひ立ち出づる。
二人下歌「いづくとも定めぬ旅を信濃路や。月を友寝の夢ばかり。/\。名残を忍ぶ古里の。浅間の煙立ち迷ふ草の枕の夜寒なる。旅寝の床の憂き涙守山の宿に着きにけり守山の宿に着きにけり。
ツレ詞「急ぎ候ふ程に。近江の国守山の宿に着きて候。此処にて宿を借らばやと思ひ候。いかに此家の内へ案内申し候。
シテ「誰にてわたり候ぞ。
女「これは信濃の国より上る者にて候。一夜の宿を御かし候へ。
シテ「易き間の事にて候。此方へ御入り候へ。不思議やなこれに留め申して候ふ御方を。いかなる人ぞと存じて候へば。某が古の主君の北の御方。幼き人
は御子息花若殿にて御座候ふはいかに。あら痛はしの御有様や候。頓て某と名乗つて力を附け申さばやと存じ候。いかにお旅人に申すべき事の候。信濃の国よりと仰せ候ふにつきて。古御目にかゝりたるやうに存じ候。
女「いやこれは行方もなき者にて候ふほどに。思もよらぬ事にて候。
シテ「何を御つゝみ候ふぞ。先某名のつて聞かせ申すべし。これこそ古御内に召し仕はれ候ひし。小沢の刑部友房にて候へ。
ツレ「さては古の小沢の刑部友房か。あら懐しやとばかりにて。涙にむせぶばかりなり。
子方「父に逢ひたるこゝちして。花若小沢に取りつけば。
シテ「別れし主君の面影の。残るも今は怨めしや。
子方「こはそも夢か現かと。主従手に手を取り交し。
地上歌「今までは。行方も知らぬ旅人の。/\。三世の契の主従と。頼む情もこれなれやげに奇縁あるわれらかな/\。
シテ詞「あれなる一間に御入りあつて御休あらうずるにて候。
ワキ次第「帰る嬉しき故里を。/\。誰憂き旅と思ふらん。
詞「これは信濃の国の住人。望月の何某にて候。さても同国の住人。安田の庄司友治と申す者を。某が手にかけ生害させて候ふ科により。此十三年が間
在京仕り候ふ処に。されども緩怠なきよし聞し召し開かれ。安堵の御教書を賜はり悦の色をなし。只今本国信濃に下向仕り候。急ぎ候ふ間。近江の国守山の宿に着きて候。今夜は此宿に泊らばやと存じ候。いかに誰かある。
狂言「御前に候。
ワキ「今夜は此宿にとまるべし。宿を取り候へ。又存ずる子細のある間。某が名をば申すまじく候。
狂言「畏つて候。いかに此家の主の渡り候ふか。
シテ「誰にて御座候ふぞ。
狂言「これは信濃の国へ御下向の御方にて候。御宿を申され候へ。
シテ「心得申し候。さて御名字をば何と申す人にて御座候ふぞ。
狂言「これは信濃の国に隠れもなき大名。望月の秋長殿では御座ないぞ。
シテ「苦しからず候。此方へ御入り候へ。
狂言「心得申し候。いかに申し上げ候。此方へ御通り候へ。
シテ「言語道断の事。我頼み申して候ふ人の北の御方。同じく御子息花若殿此家にとゞめ申して候ふ所に。花若殿御親の敵。望月が泊りて候ふ事は候。やがて此由申し上げばやと存じ候。や。いかに申し候。不思議なる事の候。今夜此処に望月が着きて候。
子方「何望月と申すか。
シテ「暫く。あたり近く候。まづ静まつて聞しめされ候へ。只今申す如く。望月が此家に泊りて候。是は天の与ふる所と存じ候。いかにもして今夜の中に。御本望達せさせ参らせうずるにて候。御心やすく思しめされ候へ。きつと思案仕りたることの候。今頃此宿にはやり候ふものは盲御前にて候。何の苦しう候ふべき。夜にまぎれ杖にすがり。花若殿に御手を引かれさせ給ひ。盲の振舞にて座敷へ御出で候へ。某彼の者に酒を勧め候ふべし。又何にても候へ御謡ひあれと申し候はゞ。そと御謡ひ候へ。花若殿は八撥を御打ちあらうずるにて候。某は獅子舞をまなび。其まぎれに近づきて。本望を遂げさせ申さうするにて候。
ツレ「ともかくもよきやうに計らひてたまはり候へ。
シテ「何事も某に御任せ候へ。
ツレ子方物着「。
ツレサシ「嬉しやな望みし事のかなふよと。盲の姿に出で立てば。
子方「習はぬ業も父のため。
女「竹の細杖つきつれて。
地「彼の蝉丸の古。/\。たどりたどるも遠近の。道のほとりに迷ひしも。今の身の上も。思はいかで劣るべき。かゝる憂き身の業ながら。盲目の身の習。歌きこしめせや旅人よ聞しめせや旅人。
シテ詞「いかに申すべき事の候。
狂言「何事にて候ふぞ。
シテ「此家の亭主にて候ふが。めでたき御下向にて候ふ間。御祝の為に酒を持たせて参りて候。然るべきやうに御申し候へ。
狂言「心得申し候。いかに申し上げ候。此家の亭主御下向めでたきよし申し候ひて。御樽を持たせ参りて候。
ワキ詞「此方へと申せ。
狂言「畏つて候。此方へ御参り候へ。又これなる人達はいかなる人にて候ふぞ。
シテ「さん候是は此宿に候ふ盲御前にて候。かやうの御旅人の御着の時は。罷り出で謡などを申し候。御前にてそと御うたはせ候へ。
狂言「日本一の事にて候。やがて申し上げうずるにて候。いかに申し上げ候。
ワキ「何事ぞ。
狂言「あれに候ふは。此宿にある盲御前にて候ふが。けしからず面白く謡ふ由を申し候。謡はせられ候へ。
ワキ「汝所望し候へ。
狂言「畏つて候。なうこれなる人たち。御所望にて候ふぞ面白からんずる所を一節御謡ひ候へ。
ツレ「一万箱王が親の敵を討つたる処をうたひ候ふべし。
狂言「いや/\思も寄らぬことにて候。
ワキ「何事を申すぞ。
狂言「これなる人達に謡を所望仕り候へば。一万箱王が親の敵を討つたる所を謡はうずるよし申され候ふ程に。御前にてはいかゞと存じいやと申して候。
ワキ「何の苦しう候ふべき急いで謡はせ候へ。
狂言「さらば今の仰せられたる所を御謡ひ候へ。
ツレクリ「それ迦陵頻伽は卵の内にして声諸鳥にすぐれ。
地「鷙といふ鳥は小さけれども。虎を害するちからあり。
ツレサシ「こゝに河津の三郎が子に。一万箱王とて。兄弟の人のありけるが。
地「五つや三つの頃かとよ。父を従弟に討たせつゝ。既に年ふり日を重ね。七つ五つになりしかば。いとけなかりし心にも。父の敵を討たばやと。思の色に出づるこそ。げに哀には覚ゆれ。
クセ「ある時おとゞひは。持仏堂に参りて。兄の一万香を焼き。花を仏に供ずれば。弟の箱王は。本尊をつく%\とまもりて。いかに兄御前きこしめせ。本尊の名をば我が敵。工藤と申し奉り。剣を堤げ縄を持ち。われらを睨みて。立たせ給ふが憎ければ。走りかゝりて御首をうち落さんと申せば。兄の一萬これを
聞きて。
ツレ「いはげなや。いかなる事ぞ仏をば。
地「不動と申し敵をば。工藤といふを知らざるか。さては仏にてましますかと。抜いたる。刀を鞘にさし。宥させ給へ南無仏。敵を討たせ給へや。
子方詞「いざ討たう。
狂言「おう討たうとは。
シテ「暫く候。何事を御騒ぎ候ふぞ。
狂言「御用心の時分にて候ふに。是なる幼き者がいざ討たうと申し候ふ程に候ふよ。
シテ「子細を御存じ候はぬ程に尤にて候。此者の謡を申したる後にては。また幼き者八撥を打ち候。其八撥を打たうずると申す事にて候。
狂言「日本一の事頓て打たせうずるにて候。いかに申し上げ候。これなる幼き者が八撥を打つべきよしを申し候。
ワキ「急いで打たせ候へ。又亭主は何にても能はなきか。
子方「獅子舞を御所望候へ。
ワキ「あら面白の事を申すものかな。いかに亭主。是なる幼き者の申すは。亭主は獅子舞が上手なる由を申し候。そと一指舞ひ候へ。
シテ「これは幼き者の条なき事を申し候。思もよらぬ事にて候。
ワキ「ひらに舞うて見せ候へ。
シテ「此上は御意にて候ふ程に。そと御前にて舞はうずるにて候。此まゝにては如何にて候ふ間。獅子頭を被きてまゐらうずるにて候。其間にこの幼きものに八撥を打たせ候ふべし。皆々かう渡り候へ。

中入「。

地(謡掛)「獅子団乱旋は時を知る。雨叢雲や。騒ぐらん。
羯鼓「。
乱序「。
獅子舞「。

上「余りに秘曲の面白さに。/\。猶々めぐる盃の。酔も勧めばいとゞ猶。眠もきたる。ばかりなり。
シテ「さる程に/\。
地「折こそよしとて脱ぎおく獅子頭。又は八撥打てや打てと。目を引き袖を振り。立ち舞ふけしきに戯れよりて。敵を手ごめにしたりけり。此年月の怨の末。今こそ晴るれ望月よとて思ふ敵を討つたりけり。
キリ「かくて本望遂げぬれば。/\。かの本領に立ち帰り。子孫に伝へ今の世に。その名隠れぬ御事は。弓矢のいはれなりけり/\。

【詞章】

シテ「これは信濃の国の住人。安田の荘司友治のみ内にありし。小沢の刑部友房と申す者にて候。さても頼み奉りて候友治は。従弟の望月と口論し。あえなく討たれ給いて候。其おりふしは在京つかまつり候ところに。この事かくと承り候間。夜を日についで本国へ罷り下り候ところに。某を路次にて狙うよし申し候ほどに。本国へもかなわず。かなたこなたと仕り。今はふしぎに近江の国守山の宿に。甲屋の主と罷りなりて候。旅人のおん通り候わば。留めてばやと存じ候。
(次第)
ツレ子方「波の浮き鳥住むほども。波の浮き鳥住むほども。下安からぬ心かな。(地取り)
ツレ「これは信濃の国の住人。安田の庄司友治と申しし人の妻や子にてさむろう。さても夫の友治は。望月の秋長に。あえなく討たれおわします。多かりし従類も。みな散り散りになり。頼む木陰も撫子の。花若ひとり隠しおかんと。敵のゆかりの恐ろしさに。思い子をいざない立ち出ずる。
ツレ子方「いずくとも.定めぬ旅を信濃路や。月を友寝の.夢ばかり。
子方「月を友寝の夢ばかり。
ツレ子方「名残を慕う古里の。浅間の煙.立ちまよう.草の枕の.夜寒なる。旅寝の床の憂き涙.守山の宿に着きにけり.守山の宿に着きにけり。
ツレ「ようよう急ぎ候ほどにこれははや。近江の国守山の宿に着きて候。この所に宿を借らばやと思い候。いかにこの内へ案内申し候。
シテ「誰にてわたり候ぞ。
ツレ「これは旅の者にて候。一夜の宿をおん貸し候え。
シテ「心得申して候。さていずくよりいず方へおん通り候ぞ。
ツレ「これは信濃の国より都へのぼり候。
シテ「あら痛わしや。女性上臈のおん身として。幼き人を伴い。はるばるのおん心づくし推量申して候。今夜はおん心安くおん泊りあろうずるにて候。こなたへおん入り候え。言語道断。ただ今の旅人をいかなる人ぞと思いて候えば。いにしえのおん主安田の荘司友治の妻や子にて候はいかに。やがて名のって力をつけ申さばやと存じ候。いかに申し候。今は何をかつつみ申すべき。これこそいにしえ信濃の国にて召し使われし。小沢の刑部友房にて候。かいなき命ながらえて。三世の主君に会い奉れば。嬉し泣きの涙の.覚えずこぼれ候。
ツレ「さてはいにしえの小沢の刑部友房か。あら懐しやとばかりにて。涙にむせぶばかりなり。今は何をかつつむべき。これは安田の荘司友治の.妻や子供の果しなり。
子方「父に会いたるここちして。花若小沢にとりつけば。
シテ「われも主君にとりつきて。別れし主君の面影の。残るも今は懐かしやと。主従手に手を.取りくみて。
地謡「今さら人の別れさえ。思い出でられて.袂のかわく.隙もなし。今までは行くえも知らぬ.旅人の。行くえも知らぬ旅人の。三世の契りの主従と。頼む情もこれなれや.げに奇縁あるわれらかな.げに奇縁ある.われらかな。
ワキ「帰る嬉しき古里を。帰る嬉しき古里を。誰憂き旅と.思うらん。(地取り)
ワキ「これは信濃の国の住人。望月の秋長にて候。さても安田の庄司友治と口論し。念のう友治を討って候。この事上に聞こしめされ。聊尓の者とやおぼしめしけん。某が本領ことごとく召し離されて候を。この度在京つまかつり。よき縁をもって申しひらき候えば。本領ことごとく返し申されて候。安堵の御教書を頂き。ただ今本国へ罷り下り候。急ぎ候ふほどにこれははや。近江の国守山の宿に着きて候。いかに誰かある。しかるべき所に立ち越え宿を借り候え。また某が名字ばし申し候な。
狂言「心得申して候。さてもさても目出たき事かな。頼うだる御方の御訴訟も叶い。御下りは思召ままの御事にて候。さて御宿をとり申そうが、今夜は初宿ぢゃ程に。ずいぶん好い宿がとりたいものぢゃが。どこ許がよかろうぞ。やあやあ甲屋が大きな宿ぢゃと言うか。さらば甲屋に致そう。これは大きな宿かな。いかにこの内に案内申し候。
シテ「誰にてわたり候ぞ。
狂言「頼うだる御方を御伴申して候。御宿を申され候らえ。
シテ「安きことお宿参らしょうずるにて候。またあれにござ候おん方のご名字をば誰と申し候ぞ。
狂言「おおあれこそ、信濃の国の住人。望月の秋長ではおりないぞ。
シテ「いや苦しからぬ事こなたへおん入り候え。
狂言「心得申し候。
狂言「いかに申候。お宿をとり申して候。こうこう御通り候え。
ワキ「近頃お宿祝着申して候。
シテ「こなたへおん入り候え。言語道断、ふしぎなる事の候。花若殿のおん親の敵。望月がこれへ着いて候。やがてこの由申し候べし。いかに申し候。旅人にお宿参らせて候間。こなたへおん出で候え。いかに申し候。なんぼうふしぎなる事の候。ただ今この屋の内へ望月が着いて候。
子方「いかにもして討ってたまわり候え。
シテ「ああ音高や候。かように申す内に案じ出だしたる事の候。おん身はこの辺りの盲御前におんなり候いて。花若殿におん手を引かれ座敷におん出で候え。自然謡を所望申し候わば。何にてもおん謡い候え。われらは酒を持ちて参り候べし。
ツレ「嬉しやな望みし事の叶うぞと。盲の姿に.出で立てば。
地謡「かの蝉丸の.いにしえ。かの蝉丸のいにしえ。たどりたどるも遠近の。道のほとりに迷いしも。今の身のほどの。思いはいかで.まさるべき。かかる憂き身の業なれば.盲目の身の習い歌。聞こしめ召せや旅人よ。聞こしめ召せや.旅人よ。
シテ「これはこの屋の主にて候が。酒を持ちて参りて候。
ワキ「近頃祝着申して候。さて今の謡の声は誰にてわたり候ぞ。
シテ「さん候是はこの辺りの盲御前にて候が。おん旅人のござ候えば罷り出でて謡い申し候。
ワキ「さらば一節所望候え。
シテ「畏って候。何にても面白からん事を一節おん謡い候え。
ツレ「一万箱王が親の敵を討ったるところを謡い候べし。
狂言「いやいやそれは差合がある。余の事を御謡い候らえ。
ワキ「いや苦しからぬこと。ただ謡わせ候え。
狂言「畏って候。さあらばそのた次第、何にても一節御謡い候らえ。
地謡「それ迦陵頻はかいごの内にして.声諸鳥にすぐれ。鷙という鳥は小さけれども。虎を害する.力あり。
ツレ「ここに河津の三郎が子に。一万箱王とて兄弟の者のありけるが。
地謡「五つや三つの頃かとよ。父を従弟に討たせつつ。すでに日行き時来たって。七つ五つになりしかば。
ツレ「いとけなき身の心にも。
地謡「父の敵を討たばやと。思いの色に出ずるこそ.げに哀にぞ.覚ゆる。
〔クセ〕ある時おとといは。持仏堂に参りて。兄の一万香をたき。花を仏に供ずれば。弟の箱王は。本尊をつくづくとまもりて。いかに兄御前きこしめせ。本尊の名をばわが敵。工藤と申し奉り。剣をひっさげ縄を持ち。われらを睨みて。立たせたもうが憎ければ。走りかかりておん首を.うち落さんと申せば。兄の一万これを聞き。
ツレ「いまいまし。いかなる事ぞ仏をば。
地謡「不動と申し敵をば工藤というを知らざるや。さては仏にてましますかと。抜いたる刀を鞘にさし。許させたまえ南無仏.敵を討たせたまえや。
子方「いざ討とう。
狂言「討とうとは。
シテ「暫く。何をおん騒ぎ候ぞ。
狂言「いざ討とうとおっしゃるによっての事でござる。
シテ「いざ打とうとは羯鼓を打とうとのおん事候よ。
狂言「羯鼓ならば羯鼓とおっしゃらいぞ。聊爾なる事をおっしゃるに依っての事にて候。
ワキ「また亭主は何をつかまつり候ぞ。
子方「亭主には獅子をご所望候え。
ワキ「日本一の事を申す者かな。さらば羯鼓ののち獅子を舞うておん見せ候え。
シテ「某は獅子舞うたる事はなく候えども。御意にて候ほどに拵えて参ろうずるにて候。その間に幼き者に鞨鼓をおん打たせ候え。
<中入>
(子方物着)
(狂言独白)
狂言「いかに幼き人へ申し候。亭主の身ごしらえの内。羯鼓を打って御見せ候らえや。
子方「吉野初瀬の花もみじ。
地謡「更級越路の。月雪。
<羯鼓>
子方「獅子団乱旋は時を知る。
地謡「雨むら雲や。奏すらん。
<獅子ノ舞>
地謡「あまりに秘曲の面白さに。あまりに秘曲の面白さに。なおなおめぐる盃の。酔もすすめばいとどなお。眠りも来たる。ばかりなり。
シテ「さるほどにさるほどに。
地謡「おりふしよしとぬぎ置く獅子頭。または八撥を打てや打てやと。目をひき袖をふれ。立ち舞う気色に戯れ寄りて。敵を手ごめにしたりけり。
ワキ「こは何者ぞいかなる者ぞ。
子方「おん身の討ちし安田の荘司友治が。その子に花若われぞかし。
ワキ「さてまた亭主と見えしは誰なれば。かほどに我をばたばかりけるぞ。
シテ「小沢の刑部友房よ。
ワキ「あらものものしとひったてゆけば。
シテ「ひきゆする。
ワキ「振れども切れども。
シテ「放さばこそ。
地謡「この年月の怨みのすえ。今こそかえせ望月よとて.思う敵を討ったりけり。思う本望とげぬれば。やがて故郷に立ち帰り。かの本領を友治の。子孫に伝え今の世に。その名隠れぬおん事も。弓矢のいわれなるらん。弓矢のいわれ.なるらん。

謡曲 「頼政」

能 頼政

源三位頼政は、Wikipediaみると、「保元の乱と平治の乱で勝者の側に属し、戦後は平氏政権下で源氏の長老として中央政界に留まった。平清盛から信頼され、晩年には武士としては破格の従三位に昇り公卿に列した。だが、平氏の専横に不満が高まる中で、後白河天皇の皇子である以仁王と結んで平氏打倒の挙兵を計画し、諸国の源氏に平氏打倒の令旨を伝えた。計画が露見して準備不足のまま挙兵を余儀なくされ、そのまま平氏の追討を受けて宇治平等院の戦いに敗れ自害した」とあります。この能の場面は、その謀叛をおこした平等院に布陣して戦い自害した様子を、宇治の里に参詣した旅僧が、頼政の亡霊からその話を聞く様子が演じられています。

頼政 あらすじ
旅の僧が宇治の里に着き景色を眺めていると、老人が現れ此処の名所のいわれを教え、平等院へと案内します。扇の形に残されている芝の事を聞くと、源三位頼政が武運つたなく自害した場所であり、今日は丁度その命日にあたり、自分こそは頼政の幽霊であると名乗り消えます。旅の僧はそのちょうど通りかかった里人に頼政のことを詳しく聞き、哀れに思い霊を弔い読経します。法体の身に甲冑姿の老武者が現れ、高倉の宮を擁しての挙兵、宇治川を挟んでの決戦で平家に川を渡って攻められての敗退、そしえ平等院の芝の上に扇を敷き自害したことを語り、僧に回向を頼み草の陰に消えてゆきます。


台本と舞台展開
1:諸国一見の僧が都から奈良への途中の宇治の里を訪れ。景色を愛で、此の地の言われを知るのに里人が来るのを待つ。

ワキ詞「これは諸国一見の僧にて候。我此程は都に候ひて。洛陽の寺社残りなく拝み廻りて候。又これより南都に参らばやと思ひ候。
道行「天雲の。稲荷の社伏し拝み。/\。なほ行くすゑは深草や。木幡の関を今越えて。伏見の沢田見え渡る。水の水上たづねきて。宇治の里にも。着きにけり宇治の里にも着きにけり。
ワキ詞「げにや遠国にて聞き及びにし宇治の里。
詞「山の姿川のながれ。遠の里橋の景色。見所おほき名所かな。

2:一人の里の老人が現れ、老人は僧の求めに応じ、宇治の里の名所旧跡を教える。

詞「あはれ里人来り候へかし。
シテ詞呼掛「なう/\御僧は何事を仰せ候ふぞ。
ワキ詞「是は此所はじめて一見の者にて候。この宇治の里に於て。名所旧跡残なく御教へ候へ。
シテ「所には住み候へども。いやしき宇治の里人なれば。名所とも旧跡とも。いさ白波の宇治の川に。舟と橋とは有りながら。渡りかねたる世の中に。住むばかりなる名所旧跡。何とか答へ申すべき。
ワキ詞「いや左様には承り候へども。勧学院の雀は蒙求を囀るといへり。処の人にてましませば御心にくうこそ候へ。先喜撰法師が住みける庵は。いづくの程にて候ふぞ。
シテ「さればこそ大事の事を御尋ねあれ。喜撰法師が庵は。我が庵は都の巽しかぞ住む。
詞「世を宇治山と人はいふなり。人はいふなりとこそ。主だにも申し候へ。尉は知らず候。
ワキ詞「又あれに一村の里の見えて候ふは槙の島候ふか。
シテ「さん候槙の島とも申し。又宇治の河島とも申すなり。
ワキ「是に見えたる小島が崎は。
シテ「名に橘の小島が崎。
ワキ「向に見えたる寺は。いかさま恵心の僧都の。御法を説きし寺候ふな。
シテ「なう/\旅人。あれ御覧ぜよ。
歌「名にも似ず。月こそ出づれ朝日山。
地「月こそ出づれ朝日山。山吹の瀬に影見えて。雪さし下す島小舟。山も川も。おぼろおぼろとして是非をわかぬ景色かな。げにや名にしおふ。都に近き宇治の里聞きしにまさる名所かな/\。

3:老人は僧を平等院へ案内するが、僧は扇のように取り残された芝を不審異思い尋ねる。老人は、昔、宮戦で負けた源頼政が扇を敷いて自害した所で、名将の古跡〔扇の芝〕だと語る。

シテ詞「いかに申し候。此所に平等院と申す御寺の候ふを御覧ぜられて候ふか。
ワキ詞「不知案内の事にて候ふ程に。いまだ見ず候御をしへ候へ。
シテ「此方へ御出で候へ。これこそ平等院にて候へ。また是なるは釣殿と申して。おもしろき所にて候よく/\御覧候へ。
ワキ「げに/\おもしろき所にて候。またこれなる芝を見れば。扇の如く取り残されて候ふは。何と申したる事にて候ふぞ。
シテ「さん候此芝について物語の候。語つて聞かせ申し
候べし。昔この処に宮軍ありしに。源三位頼政合戦に打ち負け給ひ。この処に扇を敷き自害し果て給ひぬ。されば名将の古跡なればとて。扇のなりに取り残して。今に扇の芝と申し候。


4:僧は、文武に名を得た源三位頼政でも儚いものだと傷わしく思い、合掌して弔う。老人は僧の弔いを喜び、今日がちょうど宮戦の日に当たると述べ、実は自分は頼政の幽霊だと名のり消る。

ワキ「痛はしやさしも文武に名を得し人なれども。跡は草露の道の辺となつて。行人征馬の行くへの如し。あら痛はしや候。
シテ詞「げによく御弔ひ候ふものかな。しかも其宮軍の月も日も今日に当りて候ふは如何に。
ワキ「何と其宮軍の月も日も今日当りたると候ふや。
シテ「かやうに申せば我ながら。よそにはあらず旅人の。草の枕の露の世に。姿見えんと来りたり。現とな思ひ給ひそとよ。
地歌「夢の浮世の中宿の。/\。宇治の橋守年を経て。老の波も打ち渡す遠方人に。物申す我頼政が幽霊と名のりもあへず。失せにけり名のりもあへず失せにけり。


5:里人が現れ、僧の尋ねに応じて、頼政挙兵の経緯や宇治橋の合戦の様子などを語り、回向を勧める。
6:僧は頼政の霊を弔い、夢での再会を待つ。

ワキ詞「さては頼政の幽霊かりに現れ。我に言葉をかはしけるぞや。いざや御跡弔はんと。
歌「思ひよるべの浪枕。/\。汀も近し此庭の扇の芝を片敷きて。夢の契を。待たうよ夢の契を待たうよ。


7:法体の身に甲冑を装った姿で経を読んでほしいと言う老武者が現れる。僧は源頼政の幽霊だとし、弔いにより成仏疑いないことを伝える。

後シテ一声「血は琢鹿の河となつて。紅波楯を流し。白刃骨を砕く。世を宇治川の網代の波。あら閻浮恋しや。伊勢武者は。皆緋縅の鎧着て。宇治の網代に。かゝりけるかな。うたかたの。あはれはかなき世の中に。
地「蝸牛の角の。争も。
シテ「はかなかりける。心かな。
詞「あら尊の御事や。なほ/\御経読み給へ。
ワキ「不思議やな法体の身にて甲胃を帯し。御経読めと承るは。いかさま聞きつる源三位の。その幽霊にてましますか。
シテ詞「げにや紅は園生に植ゑても隠なし。名のらぬさきに。
詞「頼政と御覧ずるこそ恥かしけれ。たゞ/\御経読み給へ。
ワキ「御心やすく思し召せ。五十展転の功力だに。成仏まさに疑なし。ましてやこれは直道に。
シテ「弔ひなせる法の力。
ワキ「あひにあひたり所の名も。
シテ「平等院の庭の面。
ワキ「思ひ出でたり。
シテ「仏在世に。
地歌「仏の説きし法の場。/\。こゝぞ平等大慧の。功力に頼政が。仏果を得んぞありがたき。


8:頼政の霊は、宮戦の起こりから宇治川に陣を構えるまでの経緯、宇治川の橋合戦の様子、敵の武将・忠綱の攻め、対する防戦を仕方話で再現して見せる。

シテ「今はなにをかつゝむべき。これは源三位頼政。執心の波に浮き沈む。因果の有様あらはすなり。
地「抑治承の夏の頃。よしなき御謀叛を勧め申し。名も高倉の宮の内。雲居のよそに有明の月の都を忍び出でて。
シテ「憂き時しもに。近江路や。
地「三井寺さして落ち給ふ。
クセ「さるほどに。平家は時をめぐらさず。数万騎の兵を。関の東に遣はすと。聞くや音羽の山つゞく。山科の里近き。木幡の関を。よそに見て。こゝぞ憂き世の旅心宇治の河橋打ち渡り。大和路さして急ぎしに。
シテ「寺と宇治との間にて。
地「関路の駒の隙もなく。宮は六度まで御落馬にて煩はせ給ひけり。これは先の夜御寝ならざる故なりとて。平等院にして。暫く御座を構へつゝ宇治橋の中の間。引きはなし。下は河波。上に立つも。共に白旗を靡かしてよする敵を待ち居たり。
シテ詞語「さる程に源平の兵。宇治川の南北の岸に打ちのぞみ。閧の声矢叫の音。波にたぐへておびたゝし橋の行桁をへだてて戦ふ。味方には筒井の浄妙。
詞「一来法師。敵味方の目を驚かす。かくて平家の大勢。橋は引いたり水は高し。さすが難所の大河なれば。
詞「左右なう渡すべきやうも無かつし処に。田原の又太郎忠綱と名のつて。
詞「宇治川の先陣我なりと。名のりもあへず三百余騎。
地「くつばみを揃へ河水に。少しもためらはず。群れゐる群鳥の翅を並ぶる羽音もかくやと。白波に。ざつ/\と。打ち入れて。浮きぬ沈みぬ渡しけり。
シテ「忠綱。兵を。下知していはく。
地「水の逆巻く所をば。岩ありと知るべし。弱き馬をば下手に立てゝ。強きに水を。防がせよ。流れん武者には弓弭を取らせ。互に力を合はすべしと。唯一人の。下知に依つて。さばかりの大河なれども一騎も流れず此方の岸に。をめいてあがれば味方の勢は。我ながら踏みもためず。半町ばかり。覚えずしさつて。切先を揃へて。こゝを最期と戦うたり。さる程に入り乱れ。我も/\と戦へば。

9:頼政は敗戦を悟り「埋木の 花咲く事もなかりしに 身のなる果は あはれなりけり」と辞世の句を詠み、平等院の芝の上に扇を敷いて自害した自らの最期を語り、回向を頼んで草の蔭へと失せて行く。

シテ「頼政が頼みつる。
地「兄弟の者も討たれけば。
シテ「今は何をか期すべきと。
地「唯一筋に老武者の。
シテ「是までと思ひて。
地「是までと思ひて。平等院の庭の面。是なる芝の上に。扇を打ち敷き。鎧ぬぎ捨て座を組みて。刀を抜きながら。さすが名を得し其身とて。
シテ「埋木の。花さく事もなかりしに。身のなるはてはあはれなりけり。
地「跡弔ひ給へ御僧よ。かりそめながらこれとても。他生の種の縁にいま。扇の芝の草の蔭に。帰るとて失せにけり立ち帰るとて失せにけり。

観世能楽堂の最終公演と能

月曜日の朝日新聞に渋谷の観世能楽堂が最終公演をした記事が載っていました。観世能楽堂は、学生時代の大学院のときは渋谷が縄張りだったので、渋谷の松濤にある観世能楽堂によくいきました。いまは関西に住んでいるので40年近く行ったことがなかったです。以前に耐震性に問題があると言うので、建て替えると聞きましたが。3月30日に最終公演があったそうです。
2年後に銀座の再開発ビルの中で、観世能楽堂が再開場されるそうです。

能楽堂と言えば、宝生流の水道橋能楽堂にも学生時代よく通いました。こちらは、東京大空襲で焼失し昭和25年に再建されてたが、昭和53年に新しく建て替えらいます。
五流ある能の観世流と宝生流の二大流派です。今後も日本の伝統古典芸能として、活動して言って欲しいものです。

こんど5月に久しぶりに数日間、東京に滞在することになりそうなので、宝生能楽堂にいって観能してみようとおもう。
そこで、ネットで上演演目を調べたら、修羅場者の代表作の「頼政」と、能には珍しい劇的な構成の敵討ちものの「望月」があるそうです。時間をつけていこうと思いますが、やりくりが出来るかどうか、時間の調整をしてみたいと思います。
■竹林乃方丈庵の主から■

・いつも拙文を読んでいただきありがとうござます。
・見聞きしたことを独断と偏見で、気ままに綴ったものです。
・自分のために無責任に書き留めたものですから、読み終わったら捨て下さい。

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記事へのコメント
  • 安倍内閣改造
    アジシオ次郎 (08/05)
    こんにちは。

    お友達内閣と揶揄された反省から、今回は異なる派閥からすすんで入れた改造内閣、バランスいいとはいうものの、女性閣僚が2人だけというのは男性優位色が
  • 見ざる聞かざる言わざる
    竹林泉水 (07/30)
    いつもコメントありがとうございます。
    三猿の教えは、子どもより大人の方が三猿について考えないといけないでしょうね。

    一つのことしか知らない大人になるのは、人それ
  • 見ざる聞かざる言わざる
    アジシオ次郎 (07/26)
    こんにちは。

    周りをよく見る・すすんで自分の意見を言う・人の話を聞く。当たり前の常識だが、子供に説くのも大事だが大人も改めてそれを認識してそれに基づく正しい行
  • アベ政治はクーデター
    竹林泉水 (07/19)
    政権を握っているのでクーデタだと言えるのでは

    しかし、安倍晋三の頭の中の辞書には、民主主義の言葉はあるが、政治家としての誠実さをなかなか感じることができないので
  • アベ政治はクーデター
    雲と風 (07/18)
    勉強になりましたが、「安倍政権はクーデター」でしょうか? 権力と威嚇によるテロリズムだと思います。内閣府の中の一派が壊憲と日本の民主主義制度の堕落無力化を共謀し
  • 教育福祉などへの株式参入は
    竹林泉水 (07/12)
    なんでも自由競争になれば、サービスの質が向上すると考えるのは間違いで、鉄道などで見ると都市部はサービスが向上するが、過疎部では反対で最悪の場合は撤退になります。
  • 教育福祉などへの株式参入は
    アジシオ次郎 (07/10)
    おはようございます。

    教育や福祉に株式参入することは、教育や福祉をビジネスに利用しかねないし、アメリカ式の市場主義経済に基づく価値観を正当化しかねないです。た
  • 食べることは殺生をすること
    竹林泉水 (07/06)
    日本人は頂きます・ご馳走様と日本人なら誰でもいいますが、外国の方はどうなのでしょうか。キリスト教のクリスチャンなら食前食後の祈りがあります。
    私は中高とミッショ
  • 食べることは殺生をすること
    アジシオ次郎 (07/05)
    こんにちは。

    人間は生きる為に他の生物の命を奪わなければいけない。と言う「原罪」を背負っている以上、食べると言うことはそうなのかも知れないです。動物の命を奪い
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